花より団子v

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高柳 悠     

街の中心通りに面した宿屋で夕食を取り終えた尚隆と六太は、明日の予定を話し合いながら、のんびりと食後のお茶を楽しんでいた。

自国をトンズラしてすでに1週間。

各国めぐりも、すでに堂に入っていて手際もよい。

後1週間くらいは、やはりトンズラされることに慣れている雁国諸官も大目に見てくれるだろう。

日も落ちて大分経つのに、表の通りの賑わいはまだ続いてる。

これが傾国の兆しがある国だと日没とともに人通りも絶えるが、ここは雁国よりも長い治世を保っている、唯一の国である。

「安定している証拠だよなぁ」

六太が、緑茶をすすりながら、表の音に耳を傾ける。

雁国よりも、のんびりと穏やかな賑わいに聞こえるのは、主の違いだろうか?

尚隆は緑茶ではなくて酒を手酌で楽しみながら、同じようにざわめきを聞いていた。

そんな風にのんびりとしていた時に、部屋の扉が叩かれた。

続いて宿の者が来客を伝えてくる。

二人は顔を見合わせて、首を傾げた。

まさか、計算より早くに諸官の堪忍袋の尾が切れたのか?

が、こちらの返答を待たずに開いた扉の向こうから現れたのは、泰国太子・利広だった。

「あ、利広だぁ」

六太が立ち上がって、利広を迎える。

利広は行動が似たもの同士なので、会うことはほとんど無いが嫌いな相手ではない。

おまけに、手には心引かれるものを持っている。

「・・・・延台輔・・・・・今、団子だぁって言ったでしょ?」

「やだなぁ、太子。そんなことあるわけないじゃん」

にっこり笑いながらも六太の視線は、利広が手に持つ団子の包みに向けられて離れない。

「お茶入れるね。座って、座って」

手を引いて座らせると、六太はお茶を入れるために手際よく支度を始めた。

お茶を入れ慣れている麒麟に苦笑いして、団子の包みを卓の上に置く。

そして、目に前にいる尚隆に目を向けた。

「よく、分かったじゃないか」

決まった行程がある訳ではない旅なのに、泰国に来た初日に宿屋に来るとは思わなかった。

そのうち、出会うとは思っていたが。

「まあね。前に大騒動があったからね、人相書きを回してある」

「・・・・・・罪人扱いだな」

それも仕方が無い。本人たちに悪気はなかったが、大騒ぎには間違いなかったのだから。

お互いに苦笑いしていると、六太がお茶を入れて運んできた。

利広の前に置いてから、尚隆の分も置いてやる。自分のも入れなおして落ち着いてから、嬉しそうに団子の包みを開け始めた。

丁寧に開かれた包みの中から団子の姿を認めると、本当に嬉しそうに六太はにっこりとする。

ここまで喜ばれると、持ってきた方も嬉しくて、微笑ましく見てしまう。

利広には兄姉妹がいるが弟という存在だけがいないため、どうやらこういう存在には弱いという自覚がある。

その上、六太は行動的で表情に飛んでいて見ていて飽きない。

ついでに、そんな六太を愛でる尚隆の表情は、これまた一見の価値有りな代物だ。

「延も安泰で、なによりだねぇ」

利広のつぶやきは、バカップルには届かない。

 

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