花より団子v

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高柳 悠     

利広の持ってきた団子は奏では有名な団子屋のもので、奏王も大好物だとかで王宮に献上されてもいる。

とうより、団子屋初代は奏王が王になる前に開いていた舎館の斜め前で店を開いていたご近所さんであり茶飲み友達だった。

600年前の昔を思い出させる懐かしい味なのである。

人相書きの人物が現れたら知らせるように手配をしていた利広は、ひさしぶりにその知らせを聞いて、ちょうど献上されてきた団子を手土産にやってきたのだ。

団子を取り分け始めた利広に文姫が文句を言ったが、延王と台輔のことを話すと膨れながらも土産として持っていくことを許した。

そんな由緒ある団子が今六太の目の前に鎮座している訳だ。

「おいしそう・・・」

思わずため息とともに、呟きがこぼれる。

「どうぞ、召し上がれ」

眺めているだけでも幸せそうな六太に、利広は笑ってしまう。

「いただきまーーーすv」

進められて、頷いて、行儀よく手を合わせる。

なくなってしまうのを長く引き伸ばすように、ゆっくりと噛み締めながら六太は至福の時を味わった。

ずずっと、お茶を一口飲んで、まだうっとりしている。

やがて夢心地から戻ってきた六太は、尚隆の前に置かれている尚隆の分の団子をちらりと見て、上目使いに尚隆を見上げる。

言葉には出さないが、小首をかしげる姿が何を希望しているのが如実に語っている。

あんまりにも可愛いので、そのまま知らん顔してしまうのは、尚隆なりの愛情の裏返しだ。

利広がいなかったら実力行使に出たかもしれないが、さすがに他国の太子の前でそれは憚られる。

「ちぇー・・・」

しばらくの膠着状態の後、小さく口を尖らせた六太が諦めた。

それを横目で見てから尚隆が自分の分を六太に差し出そうとしたところで、先を越された。

「台輔、食べて良いですよ」

利広は自分の分を、六太の前に差し出したのだ。

ちなみに、利広の視線は尚隆を捕らえていたが、六太は団子に気を取られていて、その視線と激しくぶつかった尚隆の状態には気が付かない。

「えっ、あっ、駄目・・・そんなの駄目っ」

食い意地が張っていることを見つかって照れくさくて赤くなりなって六太が断りを入れる。

頬が赤くて、本気で焦っている。

「気にしなくていいよ、食べて」

六太に視線を向けられた途端、にっこりと微笑む。

雑な態度で言葉使いも粗雑なのに、こういうところで礼儀正しい六太は訪ねてきてくれたお客のものまで、食べる真似は出来ない。

にっこり笑って押しの強い利広に押されて、六太は尻込みして尚隆のそばへと無意識ににじりよる。

「ほら」

突然警戒してしまった子犬のような行動に、利広は忍び笑いを隠せない。

そんな六太に今更ながら自分の団子を差し出して、事を治めようとしている尚隆はもっと笑える。

先を越されて、ムッとしていたのは明らかだ。

尚隆の分を差し出されて、六太は困った顔から一変して満面笑顔に変わっている。

利広の感想は「飼いならしてんなぁ」というところだろうか?

または餌付けというのだろうか?

ほんわか幸せそうな二人に、もう帰ろうかなぁ、と思っている利広だった。

 

END