不届き者の思考回路 

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高柳 悠     

「あ、やっぱり熱が出たんですか」

翌朝、具合を確かめにきた朱衡は尚隆の様子を確認して、簡単に言った。

出た、とこれまた簡単に返答した尚隆に、六太の怒りが爆発する。

「何でそんなに冷静なんだよっ、怪我したんだか熱出るのは予想できんだから、瘍医を待機させとけよなっ」

「だから、薬、置いておいたでしょうに」

一生懸命怒鳴っている自国の尊い麒麟に、朱衡はまたもや簡単に答えた。

あまりに平素なので、言い返せない。

言い返せないが、馬鹿でもぐうたらでも出鱈目でも、一応、王なんだから、もうちょっと対応の仕方があるんじゃねぇの?という感情は朱衡にも伝わったらしい。

「主上はこういう部類の熱には慣れているんですよ。今回も簡単に下がったでしょう?あぶないと思ったら、ちゃんと対応いたしますよ」

あぶなくないと対応してもらえないのか?

ちょっと複雑だが、確かに熱はすっかり下がっていて、別段普段と変わり無い様子だった。

「普段でしたら、一応様子見に来ますけど、今回は台輔もいらしゃいましたしね」

何かあったら呼びにくるでしょう、と思ってました。

と、にこやかに言う。

尚隆の方をみると、別段気にしている風でもなかったし、しぶしぶ頷いた。

ただちょっと面白くない。

普通怪我をすると血が出るから、六太は心配していても尚隆の側に行くことは出来ない。

今回は骨折と打撲だけで、血が流れていないので六太は尚隆のもとに一緒に居られた。

怪我で臥せっている尚隆というのはほとんど経験がないのだ。

だから、その間どのようなことになっているか様子が分からない。

怪我による発熱になれていて、一見して大丈夫ととられるような状態だったとは六太には読み取ることが出来なかったのだ。

なんだか凄く疎外感を感じてしまう。

不機嫌、という表情が六太の顔に浮かんでくる。

「朱衡、あんまり六太を苛めるな」

官に手伝ってもらいながら床から起きた尚隆の言葉に、朱衡の目がすっと据わった。

「失礼な。だいたい昨夜は来るな、とご命令になられたのは主上でございましょう!勅命とまで言われたのをお忘れですか?」

朱衡の言葉に驚いたのは六太で、尚隆を真正面に見つめてキッと睨む。

「何?!何言ってんだおまえっ、自分の体だろ?駄目じゃん」

「いや、だって色々邪魔だし・・・・・」

「邪魔って何だよ!瘍医を邪魔って!怪我してるの自分じゃないか」

「・・・いや、だから色々・・・・・・」

しどももろどな尚隆に詰め寄る六太の背後で、朱衡他所管は冷たい視線すら浴びせずに、自分たちの責務を黙々と果たしていた。

 

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