不届き者の思考回路 

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高柳 悠     

怪我でも公務を休ませなかった鬼官僚も、熱が出たことで一応休みをくれたので、尚隆は寝台の上で暇を持て余していた。

足骨折、腰強打の状態でふらふら出歩くことも出来ず、だが他は元気なので暇で暇で仕方がない。

遊び相手になるはずの六太は、朱衡に連れて行かれてしまい部屋には誰もいなかった。

今日も尚隆の部屋で過ごすつもりだった六太は、駄目だと言われて食い下がったが結局連れて行かれてしまった。

所詮、平時の場合はこの国では官が実権を握っているのだ。

手首を捕まれて連れて行かれる様子は、はじめて親から離される幼子のように不安げで、何とも可愛らしかった。

不安そうに振りかえる表情が泣きそうで、呼び止めてしまいそうだったが、その向こうから投げられる朱衡の冷たい目さらされてに何も言えなかった。

ま、昼になったら子犬の様に転がり込んでくるだろう。

仕事を終わらせないと開放してもらえないから、今ごろ必死にこなしているだろうし、何だかんだ言っても六太には誰も彼も甘いので、ある程度のところで切り上げさせてもらえるだろうし。

とは言っても、尚隆がサボっていた分も穴埋めしているとすると、かなりの仕事量だろうからかなり大変だろう。

まだ?まだあるの?と言う不満そうな六太の表情が思い描かれて、尚隆はふっと笑いを漏らした。

ぶつぶつ文句を言いながら、こんなに仕事をためた事に苦情を言ってやろうと心に決めているだろう。

でも。

でも、きっと。

この部屋にやってきて、尚隆の顔を見たときに言う言葉は、そんなことではなくて。

尚隆、痛い?

熱ある?

大丈夫?

そんな、心配することばかりで。

大丈夫、と言ってやると、本当?と小首をかしげて確かめる。

横になっている尚隆の上半身に乗り上げて正面から見下ろしてくる顔は、真剣そのもので、じっと見つめてくる。

重ねて不安を取り除いてやると、やっと笑ってくれるのだろう。

その透明な笑顔は尚隆だけの特権で、本当に愛しくてめちゃくちゃにしたくなるのだけど、如何せん今の状態ではどうにもならない。

早く治さないとなぁ、と不埒な考えで決意も新たな尚隆の耳に、軽やかな足音が響いてきた。

 

END