不届き者の思考回路

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高柳 悠     

「ほんっと、馬鹿」

そんな言葉とともに、足が飛んでくる。

尚隆の右腿あたりに、げしげしと六太は蹴りを入れては、なじっている。

「馬鹿っ」

げしっ、と蹴りが決まって六太は牀榻にばったりと寝転んだ。

蹴るのだって疲れる。

でも怒りが収まらないので、しばらくたつとまた蹴り始めるのである。

「六ちゃん、結構痛いんだけど?」

蹴りを入れられている尚隆は、普段なら楽にかわせる蹴りをまともに受けつづけていた。

なぜならば、負傷中で身動きとれないからである。

夜遊びから真夜中戻った時は、すでに酔っ払いで、それなりに酒には強いから油断もあったのだろう。

が、そうはいかない時もある。

よろけてバランスを崩し、転倒。

お馬鹿な主人を助けようとした健気なたまを巻き込んで、派手にすっ転んだのは昨日のことだ。

たまは尚隆におもいっきり前足を踏まれて、これまた負傷。

尚隆は左足骨折に加えて、腰も強く打ったため当分起き上がれない状態。

たまが怪我をしたので、六太の騎獣とらもご機嫌ななめで、六太もとばっちりをくらった。

その鬱憤を晴らすために、尚隆の牀榻でぐだぐだしている。

昼間は尚隆が動けないのをこれ幸いとした朱衡達が、どっさり仕事を持ってきた。

思わぬ事態に右往左往していた官達も、ふと気付けばある意味願ったり。

「見張りも立ててないのに逃げ出さない尚隆」という美味しい状態を見過ごす訳が無い訳で、尚隆も大変大人しく仕事をしていた。

六太は牀榻の上にあつらえられた簡易机の片隅で、これまた大人しく仕事をいていた。

が、2人きりになったとたんに蹴りを開始、現在にいたる。

「ばかっ」

足蹴りに疲れたのか、言葉と一緒に飛んできたのは握りこぶしで、尚隆の上腕にあたって、牀榻に落ちる。

それほど近くにいるので、やる気になれば怪我をしていようと六太を押さえる事など実は簡単な事だ。

でも、尚隆は六太のやりたいようにさせている。

六太は、尚隆の負傷の知らせを聞いてから、片時も尚隆の側を離れない。

蹴りが入るのは右足腿だけで、骨折した個所からはなるべく離そうしていう気配が分かる。

たまに打ち付けた腰に響いて眉をひそめると、六太の方が痛そうに怯えた。

だから、あまんじて受ける。

受ける・・・・が、あんまりにも行動が可愛いので、治ったら覚えていろ、とも思っている。

とりあえず、腰が治らないとなぁ、と不埒な事を考えているなどとは、六太も思いもよらないことだった。

 

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