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十二国記 尚隆×六太

(1)

高柳 悠    

 

基本的に不真面目な尚隆だが、お遊びから帰ってきた時くらいは少しだけ真面目になる。

といっても、朝議に遅れずに出るくらいだが。

いちおう、あくびもしないよう努力している。

仰々しいほど着飾った正装姿で朝議に姿を現した尚隆に、すでに揃っていた官達がいっせいに頭を垂れる。

玉座に座り、見渡すと、六太の姿がない。

「六太はどうした?」

いささかムッとしているのは、俺が仕事をしているのに、アイツは遊んでいるのか!という何だか損した気分から出るもので、自分の今までの行動は棚に上げられる。

側に控えていた朱衡をみやると、一歩進み出る。

「台輔は体調を崩されているため、お休みになっております」

勤めて平坦な声で答えたが、その場にいた全ての官が息を飲む。

「失道ではございません、ご安心ください」

尚隆にではなく諸官に向かって、そう告げる。

「失礼な奴らだ。まだ俺は何もしてないぞ」

「はいはい、そうですね、まだ、ですね」

朱衡は聞き流したが、まだ、という言葉にまた諸官が息を止める。

「皆様方も主上のお言葉にいちいち素直に反応しないように。台輔は熱が少し高いようですので、大事をとっているだけです。心配要りません」

「熱が高いのか、どれ、見舞いに行ってやるか」

そうかそうか、と立ち上がりかける尚隆とぴしりと朱衡が縫い留める。

「主上」

高くも低くもない、大きくも小さくもない、それでも迫力のある声が呼び止める。

「お座りください。朝議を始めます」

逆らえず、尚隆の腰が玉座に落ちた。

 

 

 

「普通、六太の具合が良くないという報告は、昨日俺が帰ってきた時にするもんじゃないのか?」

執務室の大きな卓で書類に目を通して印を押しながら、尚隆はゴチる。

朝議が終わって、朝餉を食べ終わって、執務室に押し込まれた。

未だに六太の顔を見ていない。

行こうとしても、朱衡惟端成笙同盟に押し戻される。

「台輔が大したこと無いから騒ぐな、と申されましたので」

朱衡が決済済みの書類を受け取り、新たな未採決書類を尚隆に手渡す。

「台輔が寝込むと、すぐに失道だと思われるからな」

書類に不備がないか確認していた惟端が、笑う。

安定している国なのに、その辺の信頼は尚隆には無い。

「本当に失礼な奴らだ」

ダン、と印を叩きつける。

「騒ぐなと言われたんなら、朝議の席でわざわざ言う必要はなかったんじゃないか?」

力いっぱい押したので、少し印が滲んだが、いいか、と横に流す。

「ま、黄医を呼んでいますから、台輔のお加減が悪いことはすぐに諸官の知れ渡ることになるでしょうから。それに、あそこで言っておけば、少々主上が台輔の自室に篭ってもとやかく言われることはないでしょう」

尚隆は朱衡の言葉に、顔を上げた。

「とにかくその書類は片付けてください。それが終われば、少しの間は主上がいなくても大丈夫ですから」

台輔の側についていてあげてください。

そう、言っている。

「黄医の薬より、主上がいた方が台輔には良薬だろうしな」

惟端が、多少のサボりはしょうがないな、と笑う。

「それにしても・・・・・お加減が悪いのははお可哀そうでしたが、目元がほのかに赤らんで、瞳は潤んで、儚げで・・・・。随分と可愛らしい風情でいらっしゃいましたよ」

朱衡が思い出すように目を閉じる。

惟端が、うんうん、と頷いている。

尚隆は、ずいっと手を出した。

「書類を全部よこせ、さっさとよこせ!」

 

 

ありえない速さで全ての書類を決裁し終えた尚隆は、そそくさと席を立ち、さっさとその場を後にした。

処理済の書類を抱えた朱衡は惟端と顔を見合わせ、苦笑いをする。

足早にさる王が向かう先にいる麒麟は、やってきた王を見て、熱に浮かされながらも嬉しそうに笑うのだろう。

 

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