都筑×密
HP四周年 お姫様だっこスペシャル |
高柳 悠
その日、登庁してきた全ての人々は何も見なかったことにしてその姿から視線を反らした。 いつも話題に事欠かない人物だが、今日のあれは見てはいけない。 そう本能で感じたから、全ての人は視線を反らし、口を閉ざした。
それでも言わなければいけない宿命を背負った人はいる。 「あんた・・・・何してるんですか?」 その宿命を背負っていると自負している巽誠一郎は、自席に座っている都筑麻人の目の前に立った。 「別に」 つん、とそっぽを向いて腕の中のそれをぎゅっと抱きしめる。 人々の事故防衛本能を刺激した物体は都筑の腕の中の納まって、抱きしめられるまま嫌がるそぶりもない。 もっとも、それはただの人形だったから、嫌がるはずもないのだが・・・・・・。 それは等身大の人形だった。 たぶん手作りだが、大変よく出来ていて誰を模したものかは一目で分かる。 黙っていると精巧な人形のようにも見える彼の美貌を写し取ったこの人形は、十分に鑑賞に堪えうる素晴らしいものだ。 だが、きっと本人は激怒して叩き壊すだろう。 幸いなことに、または不幸なことに、本人はまだ来ていなかった。 「また、黒崎くんを怒らすようなことをして・・・」 呆れ口調の巽に、都筑は子供のように膨れてますます人形に縋りつく。
都筑は今日、この人形を俗に言う「お姫様だっこ」でつれて来た。 遠目に見れば黒崎密をだっこしているように見えただろう。 都筑とともに有名人な密が、大人しくそんなことされるわけがないと知っている庁内の人々は驚き、近寄り、気付き、視線を反らしたのだ。 だって、都筑の抱きかかえているものは「黒崎密人形」だったから。 等身大の、誰を模したかバレバレの人形を嬉しそうにお姫様だっこしている成人した男性は、視線を反らされて当然だろう。
「都筑さん」
巽に呼ばれて 「だって」 と都筑は、子供のように言い募る。 「だって、密がだっこされるのイヤだって!!」 「は?」 「お姫様だっこしてあげるって言ったら、絶対嫌だって言うんだ」 「そりゃ、当たり前でしょう」 「何でっ!!」 「何でって・・・・都筑さん、あんたね・・・・・・」 呆れて物が言えないとは、正しくこういうことなのだろう。 「・・・で、その人形は?」 気を取り直して人形に話題を振ってみると、途端に都筑の表情が輝く。 「俺がねー、作ったんだよ」 凄いでしょ、とにっこり笑って椅子から立ち上がり、腕の中の人形をお姫様だっこしながらくるりと一回転までしてみせる。 「体重も同じリアル密人形v」 軸足をぶれさせない素晴らしいターンだったが、決めポーズは取れなかった。 何故なら、怒りに燃えた人形のモデルが腰にケリを入れ、よろめいた都筑の足を払い、人形を取り上げ、最後に仕上げにネコパンチを食らわせたからだ。 「没収!!」 自分そっくりな人形の手首を掴んで引きずりながらオリジナルは部屋を出て行く。 「密ーーーっ」 それを慌てて追いかけている都筑。
それはそれで、平和な一幕。
END |
闇末スランプ・・・・