都筑×密
HP三周年 手スペシャル |
高柳 悠
近頃めっきり日が落ちるのが早くなり、朝晩の冷え込みも寒がりな密には辛くなってきた。 薄手のコートでは風を遮ることが出来なくて、密は首をすくめて襟を合わせた。 「うわぁー、寒くなったなぁ」 密をこんな時間まで残業に付き合わせた張本人である都筑は、北風にやはり身をすくめている。 「早く帰ろう!」 心底冷えてしまう前に帰ろう、と都筑は密に手を差し出した。 こうやって、手を繋いで寄り添うことにもようやく慣れた。 密は差し出された手をにぎり返して、少しだけ力を込める。 こんな風に、誰かを一緒にいられる毎日がくるなんて想像が出来なかった頃は、どういうリアクションをしていいか分からず戸惑ったが、認めてしまえば普通でいいんだと思う。 何より、都筑が自然体だった。 買い物帰りに重い荷物を持ってくれたり、何気なく車道側を歩いてくれたり。 女の子扱いだと感じて反発していたこともあったが、認めて素直に 「ありがとう」 と言った時の都筑の顔をみてから、構えなくてもいいんだと感じたのだ。 密だけに差し出された手。 都筑だけに差し出す手。 手を繋いだだけで、北風も気にならなくなるから不思議。
「今夜は、鍋にしよう!」 繋いだ手をぶんぶん振って、都筑がにっこりと笑う。 こういうとき都筑は密を視線を合わせる。 ね、っとにっこりして 「それでいい?」 と密の意見を汲み取ろうとする。 「鍋奉行はやらせてやる。ただし味付けは、俺!」 自由な手で都筑の眉間を指差ししてピシッと宣言する。 「・・・・・味付けしなかったら鍋奉行じゃないじゃん」 目の前の人差し指を掴んで、口元に持っていくと密が引く前にチュッとキスする。 「ま、いいけど」 夜目にも赤くなった密の手を引いて、都筑は先に歩き出す。 「・・・・・・バカ」 引かれて歩き出した密はほんのしこし都筑の後ろを歩きながら、その背につぶやくしか出来ない。 やがて、都筑はちょっと歩調を緩め、密はちょっと足を速める。 繋いだ手をはさんで、二人の距離が縮まった。
END |