可愛い
高柳 悠
「密っ、可愛い!」 俺が本気でそう言うと、密は本気で嫌な顔をする。 機嫌が悪い時に思わず言ってしまうと、ツンツンそっぽを向いて 「可愛いって、何だよ!ばかやろーっ」 と、罵声を放ってどこかに行ってしまう。 そんなことろも可愛いと思っているなんて、言わないけど、実は言いたい。 言ったら猫パンチだろうけど。
出合った16歳の頃は見た目だけ、可愛かった。 だからそのころ俺が半分イジメで可愛い可愛いを連発していて、しかも男の子に対する表現としては確かに褒め言葉ではなくて。 可愛い、という対象は庇護される対象へ向けられる言葉。 だからたぶん密は可愛いという言葉が嫌い。 特にカラダは16歳から成長しないけど心はどんどん成長していく中、俺との対等な立場を望んでいる密にとって、可愛いという言葉は見下されていると感じているのだろう。
俺が密を可愛いと表現してしまうのは、最初のイメージが強いのは確か。 守ってやらなければ、と思っていたし。 抱きしめたり、暗闇で手をつないでやったり、ちょっと女の子扱いをしていた部分もあるかも。 だって、可愛いんだ。 見た目だけだった小生意気なガキが、どんどん俺に心をひらいてくれる。怒ったり怒鳴ったり、そんな仕草も俺へ向けられるものだと思うと可愛い。 だから、何かにつけて言ってしまう。 「密、可愛い」
可愛い。 密は怒るけど、可愛いという言葉に含まれる意味は段々代わっていていることには気が付いていないみたいだ。 代わったのではなくて、段々増えたが正解だけど。 最初はただ見た目だけの、可愛い。 そのうち、本当に何もかも、可愛い。 今は、そんなもんじゃない。 密に向ける可愛いの中には、愛してるもあるし、大好きもあるし、カッコいいもある。 俺を見て、俺を構って、他の人を見ないで。 そして、俺を守って。 俺が密に向けて放つ可愛いは、ただの可愛いではないのだ。 天下無敵の可愛いなのだっ。
END
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