ホワイト★ホワイト
高柳悠
3月14日。 普段どおりに登庁した密は、まだ静かな室内を見渡してほっと息をついた。 それと同時にこれから起きるだろう事態を思い浮かべて、はぁ〜・・・とため息をつく。 騒ぎの元凶になる人物はまだまだ登庁する時間には早すぎるので、落ち着いてられるのは今のうち。 密はささやかな平穏が1分でも長く続きますように、と願いながら自席で毎朝の習慣である読書を始めた。 その願いもむなしく平穏が破られ始めたのは、まもなくの事だった。 いつもならまだ静かな時間なはずなのに、密のいる部屋の外がざわついている。 いつの間にかドアが少しだけ開いていて、そこからのぞいている人もいる。 無視をしようと心がけても、大勢の思念というのはあまりにも強くて、だんだんと密のまわりで固まりとなり重圧になってくる。 キレる程ではないが、気分がいいものではないので自然と眉根がよってしまう。 「貴方たち、何をしているんですか?」 それを散らしてくれたのは、すでに一仕事終えた後なのか、書類を片手にもった課長秘書の巽だった。 影の実力者の登場に焦って退散する大勢の後姿をみやって、巽もため息をつく。 「・・・すいません」 あやまる密に、巽は笑って答えた。 「黒崎君のせいじゃないでしょう」 そなんだけど、ある意味当事者でもあるので、素直にはい、とは言えない。 また、ため息をつく密に、巽は苦笑いしか出来ない。 密は困っているが、これから密を困らせるだろう都筑にはそんなつもりはこれっぽちもないのだから。 密も分かっているから、本気で怒れない。 怒れないから、ため息をつくしかないのである。
時間は刻一刻と就業の時刻へと近づき、登庁する職員の数も増えていく。 遅刻魔の都筑は今だ姿を見せていないが、ここ数年この日にだけは遅刻をしていない。 だが、就業ぎりぎりなので、その姿をたくさんの職員に晒すことになる。 そして、見物するための職員が大挙して押し寄せるのだ。 この時ばかりは巽のニラミも効果がない。 密が何度目かの大きなため息をついた時、ざわめきが生じた。 何だか拍手まで聞こえてくる。 ああぁ・・、と密は頭痛を覚える。
やがて姿をあらわした都筑の両手には抱えきれないほどの薔薇の花束があり、ますぐに密のもとへ歩み寄ると、満面の笑顔で密に差し出した。 「はいっ」 きっとハートマークがたくさん飛び散っているのだろう。 笑顔が朝からまぶしい都筑は、この日のために節制してためたお金で購入した真紅の花束を今年も密に渡すことが出来てご満悦だ。 毎年恒例となりつつあるこのために、何時しか召還課には花束の重みに耐えられるくらいの大きさの花瓶が設置されている。 ちなみに、普段は傘たてになっている・・・・・・・。 花束は一日を召還課ですごし、終業後、密の腕に抱えられて姿を消す。 密の隣には、花束で手いっぱいに密の荷物を抱えた都筑が付き添っているのは言うまでもない。
END
|