バレンタイン★バレンタイン
高柳悠
2月14日。 普段どおりに登庁した密は、いつもなか閑散としている時間なはずなのに、大勢の人の姿を見かけて、うんざりと思う。 (閻魔庁って、結構ひまじゃねーの?) 「いつもならまだ来ていない時間帯」にきている奴らならまだしも、「勤務地が遠いため普段なら絶対来ない」奴らの姿まで見える。 奴らはこっそりと密の動向を伺っている訳だが、こっそりされても感情ビシバシなので密にとってはこっそりでも何でもない。 朝っぱらから感情むき出しで眺められては、一日が終わる頃には神経磨り減ってしまっているだろう。 考えただけでも、ぐったりだ。 それでもこいつ等は見ているだけなので、まだまし。 「勤務地が遠いため普段は絶対来ない」に属する連中は、見ているだけでは済まさない。 「「ひっそかく〜ん」」 その代表。 ステレオ放送で近寄ってきた北海道勤務の二人組みは、ハイテンションで早起きだが低血圧な密を余計に疲れさせる。 「「はい、チョコレート」」 突きつけられた北海道限定仕様のチョコレートは素直に受け取った。 でないと、余計に騒がれるから・・・・。 受け取ったチョコレートを引き出しにしまおうと思って引き出しを開けると、そこにはすでに色とりどりの包みに包まれてた贈り物があった。 「「あ、チョコレートだ」」 きゃーーっという奇声とともにチョコレートを手にとって、すごいすごいと楽しそうに騒ぎ出す。 他の引き出しもあけて見つけ出したチョコレートを机の上に広げて数を勘定しはじめ、送り主は誰だろうと協議を始め、密がどうしていいか分からなくなった頃 「「で、密君は?」」 といきなり話をふってきた。 「は?」 「「だーかーらーぁ、密君はチョコレート、持って来てないの?」 「・・・・何で、俺が?」 「「都筑さんのあげるのに、決まってるじゃなーいっ」」 やーねぇ分かってるくせに、と密の肩をバシバシ叩く。 遠慮なし。 「何で俺が都筑なんかにあげなきゃいけないんですか?だいたい今日は女の子が告白する日でしょ」 関係なし!と冷たく言い放つと 「えーー、あげないのぉ」 とつまらなそうにお互いの顔を見合わせた。 ・・・・・・これだ。 妙に人が多くて視線を感じていた理由。 黒崎密は今年こそ都筑麻人にチョコレートをあげるのか?あげないのか? 密が知ったのは一昨日のことだ。 亘理が賭けの対象になっていると教えてくれた。 で、あげるの?あげないの? と聞かれたので、猫パンチをお見舞いしてきたのだ。
その日、一日中視線を感じて神経すり減らしている密の横で、甘いもの大好きな都筑がお義理のチョコレートを山ほど貰っていた。 気軽に話が出来てとっても喜んでくれる都筑は義理チョコは大量に貰えるらしく、にこにこだ。 ホワイトデーのお返しは、これまた都筑の懐事情は知れ渡っていて、本当に義理だから返さなくてもいい、ということになっているらしい。 ジト目になっている密に都筑がチョコレートのかけらを差し出して 「疲れてるときは甘いものがいいんだよ」 とか何とか言ってきたが、その様子を観察していた連中からの何を期待しているのか考えたくも無い感情の波に余計に疲れさせられる。 そんなんだから終了の時間を迎えた頃には、頭痛まで引き起こして、密はさっさと帰ることに決めた。 密の後姿を見送る面々の残念そうな気配なんか知ったこっちゃない。
だって、これからがメインイベント!
昨日のうちに全ての買い物を終わらせていたから、密はまっすぐに家に帰った。 夕飯は二人分。 後は暖めればいいだけまで準備を終えて、時計を見る。 どうせ残業して来るのはまだまだだろうから、先にお風呂に入ってしまおう。 そう思ってお風呂に入ってのんびりしていたら、玄関が開く音がした。 慌てて出て行くと都筑がリビングで待っていた。 「早いじゃん」 「頑張ったの!」 褒めて、と懐いて、すばやくキスをされた。 慌ててたので、まだ濡れたままの髪が触れて、冷たいと笑った。 都筑がお風呂に入っている間に夕飯を温めることにして、密はキッチンへ行き都筑は風呂へ向かった。 向かう前に、ちゃんと頭拭いて、と注意は忘れない。
夕飯は普通。 ゆっくりと和やかな時間。 メインイベントは、夕飯の後。 二人で食器を片付けて、綺麗になったテーブルに紅茶のティーカップとお揃いのケーキ皿。 冷蔵庫から取り出した箱を都筑に手渡す。 密のお手製のチョコレートケーキ。 レシピは巽さんから伝授された、秘伝のもの。 「ありがとう」 手渡されたケーキを都筑が切り分けて、それぞれのお皿へ。
二人だけの、バレンタイン。
END
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