抱きしめて欲しい
高柳 悠
「密、足元気を付けて」 週末。 大量な買出しを抱えてスーパーから出てきた密に、都筑は声をかけた。 一昨日あたりからやってきた寒波によりあたりは一面銀世界で、今は降っていないが冷え込みのために所々凍りついた個所がある。 自身も大きな袋を幾つも抱えて両手がふさがっている状態なのに、都筑は密の心配をする。 「わかってるよっ」 それを子供扱いされていると感じて、密はぷいっと顔をそむけた。 その態度のほうがよっぽど子供じみていると自分で分かっているから、余計に腹がたつ。 都筑の持つ荷物と比べててあまりににも軽いそれを降りまわして、苛立ちを紛らわせる。 「そんなに降り回したら、危ないって」 さっさと歩き出した密の後を追いかけて、都筑は密の隣に並ぶ。 もちろん、車道側。 慣れない雪道を、おっかなびっくり歩いてやっと家が見えてきた。 両手に抱えていた荷物を大きな手で一まとめにすると、都筑は密よりも一歩早く扉の前にたどり着いて鍵を開ける。 「ほら、早く入って」 扉は都筑のによって、密のために開けられる。 (・・・・俺の家なのに) 言っても無駄なので、大人しく家の中に入って荷物を二人で片付けた。 一息ついて、二人でお茶タイムをしていると、都筑が突然密の手を取って手の平を眺める。 「何だよっ!?」 「え?いや、密にいっぱい荷物持たせちゃったから、跡が付いちゃったかな?って思って」 都筑の大きな手に包まれて、密の手はよりいっそう小さく見える。 16歳のままの身体。 しかも、16歳男子としては発育不良。 あたりまえだ。 最後の数年は「育つ」どころか、死なないだけで精一杯だった。 「よかった。平気みたい」 笑う都筑から、自分の手を取り返す。 以前、ビニールの持ち手が手に食い込んで赤くなってしまったのを覚えていたのだろう。 都筑は、些細なことまで密を気遣って大事に大事にする。 密が怒っても詰っても理不尽なことを言っても、大人の余裕で全部を包み込んで許容してしまう。 昔はそれが尺に触って素直になれなかったけれど、どんなにジタバタしても生きてきた年数の差は縮まらない。 所詮、都筑の前で密は子供なのだ。 だが、それだけではないと気が付いた。 だから、密は都筑の前で普通に自分のままでいられる。
こんな風に寒い夜。 都筑は密を抱きしめて、眠る。 でも、本当は密に抱きしめて欲しいと思っている。 だから密は大きな子供の背をしっかりと抱きしめて、二人だけの世界で眠りにつく。
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