一瞬の距離
高柳 悠
「密は、もうちょっと太った方がいいかもね?」 二人きりの部屋で、いつものように密を腕の中に閉じ込めながら都筑が突然そう言った。 「太らない体質なんだよ」 うざったそうに都筑を押しのけようとしながら、それでいて本気でない行動は簡単に押さえ込まれながら、密は答える。 「体質もあるけど、食べなさすぎだよ。密は」 「作ってるとそれだけで、おなか一杯になちゃうんだよ」 「何だったら、俺が作ってあげるよーーー」 「絶対駄目っ!」 心なしがハートマークが語尾についたような都筑の言葉にビシリッと言って、密は都筑の腕から逃げようと、今だもそもそ動いている。 「えーーー?なんでぇーーー??」 もそもそ動く密をもそもそ動いて封印する。甘ったるい声で問いながら、食べなきゃ駄目なんだぞー、と耳たぶに噛み付いた。 「ん・・っ」 すでに高めあった後だった余韻の残る体は、ピクンと反応して跳ねた。 「ねぇ、ちゃんと食べて、もうちょっとだけでもいいから、太って」 耳の中に舌を差し込んで、繊細に作られた軟骨の間をなぞる。 「・・・・・ん、んっ」 「最近また痩せただろ?」 骨、当たるもん。 そう言って、ギュッと抱きしめる。 それだけで折れてしまいそうな体は、都筑の綺麗に筋肉ののった体に比べれば、確かに細すぎる。 「だ・・・抱きごこち・・・とか・・・悪い?」 「へっ?」 気まずそうな言葉に、都筑は驚いて密を見やった。 伏せた目蓋が影を落とす表情は、困った時のそれ。 痩せすぎて骨があたって痛くって、自分に嫌われる。とか連想しているのだろうか? どうしていきなりそう飛躍するのか。 すべての愛情に不慣れな密らしい反応は、少し悲しいけど、自分に嫌われちゃうのが嫌だという裏返しだと思えば嬉しい。 だから、明るく否定してあげる。 「そんなことないよー」 もとより、そんなことで嫌えるはずがない。 こんなに愛しい存在を。 「ただねぇ、密の体が心配だっただけ・・・・それにねぇ」 「それに?」 「もうちょっとお肉がついた方が、密を抱きしめる瞬間が、ちょっとだけ早くなるかなぁーーって、ね。」
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