空間
高柳 悠
さいきん落ち着いた日々が続いていた。 切羽詰った仕事も無くて、平和で大変良いことだ。 基本的に週休2日制だけど、仕事が入ればそんなこと言ってられないし、落ち着いて休みなんか取ってられないのだ。 なので、今日は定休日にちゃんと休める貴重な日だ。 密はポカポカのお日様があたる窓辺に大きなクッションを移動させてきて、居心地の良い様調整して、ぽすんと座る。 かたわらには大きなマグカップに香りの高い紅茶。 本当は薄手にカップに注いだ方がいいのだろうけど、なるべく動きたくないので横着な手段を使わせてもらった。 手に持っているのは、図書館で見付けた本。 ずっと前から読みたかったのだけど、結構な厚みのある本なので、まとまった時間が出来るまで我慢していたのだ。 だから昨日貸し出し出来たときは、とっても嬉しかった。 たまっていた雑用をさっさと済ませて、お待ちかねの読書タイム。 没頭してしまったら周りの音さえはいってこないタイプの密は、せっかく用意した紅茶のことも忘れて読みつづける。 紅茶もやがて湯気もたたなくなって、部屋にはページをめくる音だけが響いている。 その長い時間を途切れさせたのは、3時を告げる壁掛け時計の控えめな音だった。 ぽん、と小さくなった音は部屋の隅々まで届いて、この部屋が嫌に大きく感じる。見慣れた部屋なのに、空間がやけに広い。 一度そう思ってしまうと、何か居心地が悪くて空寒い。 あれほど暖かだったお日様も、翳ってしまったようだった。 もう一度時計を見上げると、3時をちょうどを長針が少しづつ過ぎていく。 「・・・・遅いな・・・」 思わずつぶやいてしまった言葉に、自分でむっとしてしまう。 別に約束なんてしてなし、自分は待ってないし、一人の空間が寂しいなんて思わないし! 無理やり本へ視線を戻しても、密の眉間の皺は何時までも取れなくて、本のページはめくられなかった、 泣き出しそうに歪んだ顔をしていることを、密は知らない。 だから、やがて鳴った来客を告げるインターホンに、自分がどれだけ嬉しそうな顔をしたのかも、もちろん気が付かなかった。
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