ラブローション
都筑×密
HP一周年ラブローションスペシャル |
高柳 悠
読みふけっていた本から意識を外に戻したのは、没頭し始めてからだいぶたった頃だった。 ふと窓の外に目を向けると、何時の間にか雨が降っている。音もなく降り注ぐ雨のベールが世界を覆っている。 そのベールの向こうから静寂の世界を壊す足音が響いて、やがて黒い人影が姿をあらわした。 「やっと来やがった」 おっせーんだよっ、と内心で愚痴ってタオルを取りに窓辺から離れる。 やがてけたたましい騒音とはっきりとした存在感をふりまいて、都筑がドアを開けて入ってくる。 「濡れちゃったよーーーーー」 「あっ、馬鹿!てめーーー、そのまんまで上がってくるなっ」 びしょぬれのまま上がりこもうとした都筑に慌ててタオルを渡して、このままでは風邪をひくからと風呂場に押し込む。 都筑があったまっているうちに、それでも濡れてしまった床を拭いて後始末をしていた密は床に置かれた白いビニール袋に気が付いた。 自分は記憶にないので、きっと都筑が何か買ってきたんだろう。 濡れたビニールから雫が落ちないようにタオルで抑えながら、中身を取り出す。 中から出てきたのは、とりあえず濡れても関係なさそうなプラスチック容器だった。 ビニール袋の表書きは、近くの安売りを売り物にしている有名薬局チェーン店の文字。 プラスチック容器には「LOVE LOTION」の文字。 「・・・・いちご味」 つぶやいたところに都筑がお風呂から出てきた。 ずぶ濡れの服は洗濯機行きで、今来ているのは勝手に持ち込んだ私服だ。 「あ、それそれ!新製品なんだってっ」 新物好きの都筑が瞳をキラキラさせて、密の手の中のものを説明する。 「密、いちご好きだろう?」 だからいちご味にしたの、と嬉しそうに語る都筑に、密は 「ふーん」 と、そっけない。 「何だよーーー、せっかく買ってきたのにぃーーー」 「だって」 「何?」 「お前、これ俺に使うんだろ?」 「・・・・・使われる趣味はない!」 「だったら、何味でも俺には関係ないじゃん」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 しーんと黙ってしまった都筑は、ややあって手のひらに握った手をポンッと打つという古典的なヒラメキポーズをやらかした後、身を翻して雨の中へと飛び出した。 「チョコレート味を買ってくる!!」 と言い残して、さっていった後の部屋にはもとの静寂が戻っていて 「それはいくらなんでも、無いんじゃないか?」 と思わず言葉にしてしまった密の声はいやに大きく響いていた。
END
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