謹賀新年
高柳 悠
500年も続く大国家ともなると新年の行事も盛大で厳かだ。 サボりが目立つ主従への戒めのためにも、こういった行事はきっちり行わせるのが勤めと自負している諸官の取り計らいで、華美ではないが大国に相応しいものだ。 その中心として祭り上げられるのは、当たり前だが王たる尚隆と麒麟たる六太となる。 いつになく飾り立てられて尚隆は玉座へ、六太はその脇へと座らされている。 祝賀の宴会の時はまだ無礼講的なものへと次第に移っていくので、それりに楽しめたが、今執り行われているのは、州候・諸官・各界重鎮・賓客・各所代表・・・その他色々の王への新年の挨拶、というものだ。 治世の長さと比例して挨拶の人数は年々増加の一途をたどり、1日で終わらないところまでになった時には、さすがに人数制限のための整理が行われた。 昔は一人一人に声を掛けていたが、人数が多すぎて声を掛けるのを限定すると贔屓だとか何だとか問題になり、今では頷くだけに省略化されている。 それでも1日がかりの、大仕事だ。 男らしくきりりと決めているのと対照的に、六太は実に可愛らしく着飾っている。 別に本人がそうしたかったわけではなく、六太付きの女官によってたかっていじくられた結果だが、年に1回あるかないかのことなので、このときばかりは六太も大人しくされるままとなっている。 そのせいか、年々派手になっている気がするが回りは喜んでいるので苦情は出ていない。 延々と続く口上を厳粛な面持ちで聞いているだけでも疲れるのに、重たい衣装に体力は削られ、結い上げられた髪が痛くて頭痛がしてくる。 それよりも何よりも、飽きた。 というのが本音だ。 「・・・・尚隆」 六太は斜め上に座っている尚隆を呼ぶ。 今口上を述べているのは、普段尚隆と直接会うことが出来ない地位にいるだろう人物で、興奮のため上手く口が回らないのか何をいっているのか意味不明となっている。 それでも尚隆は鷹揚に頷いて、涙を流さんばかりに有り難がっている彼の一生の思い出を作ってやっていた。 その耳に、小さく六太の呼ぶ声が聞こえる。 そちらを向かずに、何だと問い返す。 「飽きたっ」 不機嫌な六太の声は、声として尚隆に届いているわけではない。 六太の使令が、尚隆との間に線を繋いで声を伝えているのだ。 おかげで本の少し唇を動かすだけで、意思の疎通が出来る。 おまけに、見つからない。 「お前は座っているだけだろうに。俺は分かったふりで頷かないといけないんだぞ」 「尚隆も簪やら何やらいっぱいつけて、髪結ってみるか!?」 女官ご自慢の髪結い技術を駆使したそれも、六太にとっては間違えているとしか思えない。 「・・・・俺が、似合うと思うのか?」 「じゃ、俺が似合うと思うわけ?!」 思う。 と、即答しそうになったが、これ以上機嫌を悪くされても困るので、懸命にも尚隆は留まった。 「とにかく、後少しだろう。我慢しろ」 尚隆としても、こう言うしかない。 はやく終わって欲しいと思っているのは自分も一緒だ。 「飽きたっっ」 こういうやりとりは、毎年恒例となりつつあるが、今年の六太はちょっとご機嫌斜め度が酷かった 勤めと分かっているから、放り出せなくて余計にイラ付いているらしい。 よっぽど髪型が気に入らないらしい。 「後、ちょっとだ」 「・・・・・・・・・・」 慰めるように優しく言うと、六太も何も言わない。 だから余計に不機嫌さが伝わってきた。 こういう時はちゃんと慰めてやらないといけない。 だから尚隆はとても真面目に真剣に言った。
「終わったキスしてやるから、いい子にしてろ」
六太は何も言わなかった。 言えなかった、が正解だ。 とりあえず、いい子で終わるまで頑張ろうとは思った。
END |
くだらねー・・・・