地上の星たち
高柳 悠
欄干の上にちょこんと座って、六太は一人で夜風に吹かれていた。 振りかえれば荘厳な玄英宮がそびえたち、きらびやかに光が満ちて楽の音と人のざわめきが聞こえてくる。 それらに背を向けた六太の周りには不思議に音がなく、静かな時間が流れているようだった。 眼下は切り立った崖で、深い闇が広がっている。 だが、暗く沈む闇の向こうに煌く光が見える。 普段ならただの闇が存在するだけなのに。 六太は、その光を見つめていた。 ただ、じっと見つめていた。
六太だけのその空間に、誰かが踏み込んできたのは気配で分かった。 それを綺麗に無視して六太の視線は、光を見続ける。 背後に立たれて 「・・・・こんなところに」 とため息を付かれても、視線は動かない。 だけで、包み込むように抱きしめられて、思わず息を吐いた。 あまりに、暖かくて涙が出そうになった。 目を閉じてしまう。 無造作に倒れこんでも、微動だもせずに受け止められて、心の底から安心する。 「冷たいな」 ずっと風にあたっていたせいか、むき出しの手が冷たかったのだろう。 少し怒った声で諭される。 「大丈夫、暖かいよ」 ちょうど良い位置にあった頬に、自分のをくっつけてみる。 「・・・・冷たいぞ」 そう言って、温もりが擦りつけられた。 流れ込んでくる体温は、本当に暖かかった。
「何を見ていた?」 聞かれて、目を再び開けた。 目の前の精悍な顔は、六太の方を見ていなかった。 視線を辿って、やんわりと笑う。 視線の先にある、煌き。 「おんなじもの」
100年の月日の流れ。 祝いの宴会は、最高潮だろう。 やっと立ち直ってきた。 一度は滅びたと言われた雁の復活。 遥か眼下に見えるのは、関弓の町の明かり。 夜の町に明かりが灯り、区切りの年を祝えるということ。 そこまでに、やっと立ち直ったのだ。 まだまだ問題は山積みで、これから幾つも超えなければならない問題があるが、その灯火は六太が夢にまでみた、人々の安らぎの光だった。
END |