透明な空色
(2)
高柳悠
どうせ今日は役に立たないから寝ちゃいなさい。 と、何気にひどい事を言いつつ惟端はそのまま六太の自室に向かった。 腕に腰掛けるように抱き上げられて、六太も惟端の首に軽く手を回して大人しくしている。 惟端の肩口がちょうどいい位置にあって、六太はことんと頭を押し付けた。 もともと居た場所がかなり自室から離れていたので、割と長いこと抱かれたままの移動となった。 歩みによる一定の振動は最近寝不足だった六太には眠気をおよぼす心地よい揺れ具合で、ゆらゆらと眠りに落ちて力の抜けた体はべったりと惟端に懐いている。 はたから見ると、甘ったれな子供にしか見えない。 ドツボに嵌っていたのは知っているので、どうせ寝てなかっただろうとは推測がつく。 惟端も別に起こしたりしないで、眠りを妨げないようにゆったりとした歩みを心がけた。 時折すれ違う官達の、あらあら、という視線に耐えながらようやく六太の自室まで近づいてきた。 あの角を曲がれば・・・・・。 というところで、ばったりと尚隆と出くわした。 その後ろには、朱衡もいる。 「おっ」 という声を上げたのは尚隆で、しげしげと見られて惟端は大変居心地が悪い。 だが惟端が行動を起こす前に、動いたのはぐっすり寝こけていた六太だった。 むっくりと頭を持ち上げて、きょろきょろと周りを伺い見る。 どう見ても、まだ覚醒してなくてほとんど無意識の動作のようだった。 見ているのがどうだかは定かではないが、一応顔の向きとしては尚隆の方を取られたようだ。 ギュッと掴んでいた惟端の衣を、もう一度きゅっと握る。 それからそろりと尚隆に向かって伸ばされた手は、ただただ無心で、尚隆も思わず六太に向かって手を伸ばした。 暖かな塊が、尚隆の腕にしっかりと収まる。 尚隆の首に捕まって、尚隆の腕にしっかりと抱きかかえられて安心したのか、そのまま六太は瞳を閉じてしまった。 抱きなおすために揺り上げた際も、ちょっとむずがっただけで、起きる気配はない。 「・・・・・・そのまま台輔のお部屋にいって結構ですよ」 ちらりと朱衡を振り返った尚隆に、溜息混じりに公務放棄の許可を出す。この状態では仕方あるまい。 六太を抱えて歩み去る背中を見ながら 「寂しいですねぇ」 と、六太のいなくなった空間を残したままの姿の惟端に、慰めにもならない言葉を朱衡はかけてやった。
END
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ほ〜ら、惟端×六太じゃないでしょ・・・ってごめんよ、惟端・・・・