真夜中の侵入者

高柳 悠

あと少しすれば熟睡できるという瀬戸際。

意識の片隅で微かな音がして、尚隆の安眠を妨害した。

尚隆は目を瞑ったまま、音の気配を探ぐる。

誰かが、部屋へ侵入しようとしている。

窓を開けて、乗り越えて、途中少し大きな音がしたのはきっと何処かにぶつけたのだろう。

夜中に他人の部屋へ忍び込むには粗忽すぎる侵入者は、どうやら無事に部屋の床に足を着ける床が出来たようだ。

起きだして誰何どころか、尚隆はごろりと寝返りを打って入り口から背を向けた。

いくら平和ボケしているとはいえ、王の寝所へ誰にも咎められないままたどり着ける人物などそうそういない。

万が一いたとしても、使令がいる。

彼らが何も騒がないというということは、侵入者はそういう人物だということだ。

騒がない代わりに、侵入者が何かに躓いたりしないかと、ハラハラしているかもしれない。

夜目が利くはずなのに、よく転ぶ・・・・・・と思ってるそばからぶち当たる音と思わず上がった痛がる声が聞こえてくる。

どうにかこうにかたどり着いた牀榻の手前でしばし躊躇してから、侵入者はゆっくりと尚隆に近づいてくる。

背中を向けいている尚隆の背後で、止まった。

そのまま、視線がじっと背に注がれた。

しばらくしておもむろに尚隆を乗り越えて、尚隆の正面へとやってきた。

尚隆は、もう吹き出すのを堪えるので必死である。

どうゆっくり移動したってどうしても体重の分だけ沈んでしまう牀榻の上を移動する時、尚隆が起きないように配慮する行動が取れるのに、何故尚隆の正面に来るという行動を起こす時に回り込む、という行動をしないで本人を乗り越えようとするのだろう。

これだから天然素材はいつまでも飽きない。

もぞもぞと入り込んできて、尚隆の横に落ち着くと側にあった尚隆の手を取った。

持ち上げたり、指をひっぱたり、自分のと比べてみたり、遠慮がちながら色々試していたが、そのうち飽きたのかポンっと放り出す。

内心ムッとしたが、再びその手に暖かい手が触れてきて、ただただぎゅっと握り締めるのを許した。

大きさのあまりに違う手を、両の手でしがみ付くようにして握り締めてくる。

そのうち聞こえてきたやわらかな寝息に、そっと目を開けると、真夜中の侵入者の穏やかな顔がある。

何かに怯えたのか、何かが不安だったのか?

寝顔からは伺えなかったが、すがる両手が寄せられる信頼を表しているようで、尚隆の顔に自然と笑みが浮かぶ。

「甘えん坊で、困ったもんだ」

思いつつ、甘やかしてしまうのだから。

困ったもんだ、と尚隆は自分への苦笑いをこぼした後、ゆっくりと目を閉じた。

 

END