ラブローション
HP一周年ラブローションスペシャル |
高柳 悠
グリフィスが私室として使っている部屋に入っていくと、ガッツの後姿が目に入った。 床に直に座り込んで、壁一面の書棚を覆い尽くした書物から何やら引き出して読みふけっている。 人の気配に敏感なガッツが、やったきたグリフィスに気がつかないなんて、余程集中しているのだろう。 最近、こうやってグリフィスの部屋にガッツはやってくる。 もともと入り浸りだったことには変わりないが、前は部屋にグリフィスが居ないとやってこなかった。目当てがグリフィスなので、居なければ意味がなかったのである。 だが最近はこうやってグリフィスの不在の時にやってくる。 帰ってきたグリフィスに気が付いて慌てて部屋を飛び出していく、なんて事が度々あった。 本を手にすることすら稀なのに、どういう風の吹き回しかと訝っていたが、本の位置を全て覚えているグリフィスにはガッツが何の本を手に取っているか直ぐに分かった。 本人は隠したがっているようなので黙っていたが、帰ってきた自分に気が付かないのはちょっと癪に障る。 ので、後ろから声をかけてやった。 「使えそうな技はあったか?」 「・・・・・・・いや、技じゃなくて、滑りがよくな・・・る・・・・・・」 「滑り?」 「グッ、グリフィスッ」 男と女が複雑に絡み合った「絵」付きのハウツー本を片手に、振り返りかけていた体が硬直している。 「滑りがどうしたんだ?」 本を取り上げてパラパラめくる。どんなに柔らかくても無理なんじゃないか?という体位も幾つかあって、グリフィスは実践向きじゃないなぁ、とゴチる。 「い・・いや・・・その・・・・・・」 「ん?」 ずいっと顔を近づけると、ガッツの顔がうっすら赤く染まる。 ガッツがグリフィスの顔のアップに弱いのを知っていて、技とである。お約束通りの反応ににっこりと微笑んでやると、もっと赤くなるから面白い。 面白がりつつも、視線には「話せ」という眼力が込められているのでガッツは話さずにはいられない。 「だからっ!男は濡れないんだろっ。男同士はちゃんと準備しないといけないって・・・・・」 勢いあまった感じで話し始めたが、ガッツにしては長い台詞に疲れたのか最後の方は尻切れに音量が小さくなる。 「誰に聞いたんだ、そんなこと」 「酒場で飲んでたとき、コルカス達が話してたのを小耳に挟んだ」 「まぁ、普通はな」 「普通?」 「男の使うところは用途が違うから、女みたいに濡れないのは本当だから、普通は事前に濡らしたりするんだよ」 「普通は?」 「お前、俺とやってるとき濡らしたことあるか?」 「・・・・・・・・ない」 ちょっと考えてからガッツは答える。愛撫としてはあったかもしれないが、濡らすとかそんなこと考えてる程毎回余裕はない。 「俺は、特別だからな」 不適な笑みを浮かべるグリフィスを見上げるガッツの目が、何が?と訴えている。 その視線を悠然とかわして身を翻したグリフィスは、部屋の奥へと続くドアに足を向けた。扉の前で振り返って、座ったままこちらを見ているガッツに、深い妖艶な微笑みを見せる。 「・・・・・・・確かめてみるか?」 チロリと覗いた赤い舌に、ごくりと喉がなった。 開いた扉の向こうにグリフィスが消える。 その扉が閉じる前に、ガッツは扉の向こうへ身を滑り込ませた。
END
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