妙香花仙より

美しさも

たおやかさも

品格も

情け深さも

優れていること

 

蕾が上げた妃候補の条件。

 

錦花仙帝である母のあっけにとられた顔。

戸惑う宴に集まった美姫の顔。

老伯将の豪快な笑い。

そして

条件にされた当の本人は、ぽかんと無防備に蕾を見上げていた。

 

 

 

うやむやなうちに宴をお開きにして、蕾はさっさと下界に帰ってきた。

何だか納得いかなげな表情の薫は

「楽しみにしていたのに・・・」

とため息をつくが、蕾の知ったことではない。

透のマンションで一風呂浴びてクーーーッとビールを一気飲みして、ようやく一息ついた。

天界は堅苦しくて、やっぱり肌に合わない。

「薫さんを条件にしたんだって?」

向かいに座ってビール片手に透が問いかけた。

ことの顛末を聞きたくてしょうがないのか、好奇心に瞳がきらきらしている。

「した」

あれ以上は、いないから。

女世界の花の世界で男である薫が妙香花仙という大役につけるのは、ひとえに薫個人の能力と存在の希有さだ。

錦花仙帝を押しのけて「花の中の花」と呼ばれているのは伊達ではない、ということだ。

薫が女だったら迷わない、というのは本心。

別に、男だからといって、迷わないが。

絶対に離すつもりも、ない。

 

「お前が女なら、別にオレは迷わんがな」

 

そう言ったとき、薫はにっこりと笑って嬉しそうだったが、オレが本気だとはこれっぽちも思っていないだろう。

薫の愛情は蕾一人に向けられているけど、それは無償の愛情で限りなく広く深いものだ。

蕾の愛情は限りなく狭く奪いつくすもので、今のところ相容れるものではない。

「つーぼーみー・・・・悪人のツラしてるぞー」

透がふざけた声音で注意するが、結構本気の忠告だろう。

一緒に暮らしていれば、蕾の薫への感情など見抜けるだろう。

隠してもいないし。

気が付かないのは、本人だけだ。

粗雑でガサツでも、薫に対する態度だけは乱暴に見えても実に細やかだらか。

透の忠告には、とりあえず頷いておく。

まだ、どうこうするつもりはないからだ。

この穏やかな絆も暖かで捨てがたいから。

それでも均衡が破れると時を、夢にみる。

か弱い全てを手折った時、どうなるのだろうか。

 

想像する時。

いつも思うことは

自分は確かに風の血を引いているというこだ。