75000番キリ番ゲッター 榎本鈴美 様リクエスト 十二国記 尚隆×六太 |
(1)
高柳 悠
慶王陽子は延王尚隆を師と仰いでいるのか、よく雁国を訪れる。 親友を公言してはばからない楽俊が、この国にいるせいもあるかもしれない。 慶国麒麟である麒麟である慶麒は他国へ軽々しく出向く行動を快く思っていないため、出かける陽子を非難がましい視線で見つめ、止めるよう進言することが多かった。 だから陽子はある日慶麒を連れ出した。 訪れる国にいる奔放すぎる麒麟ほどにくだけてしまっては困るが、こんなに硬すぎるのも疲れるから。 「こんなくだらない事に勅命を下すなんて・・・」 とぶつくさ言いながらもついて来た慶麒は 「おー、よくきたなぁー」 とあっけらかんと笑っている延麒に礼をとる。 小難しい口上を述べようとしたが、六太に綺麗に無視されて適わず、いささか憮然とした表情となる。 思わず笑いそうになった陽子は慶麒の鋭い視線に慌てて堪えたが、連れてきてよかったと思った。 気分を害しているようだが、ピリピリとした気配は感じない。 同属という存在には、やはり気を緩めるものなのだろう。
欄干の上に座っている六太は楽俊相手に身振り手振りを加えて何かを話している。楽俊が答えて、六太が笑う。 慶麒は楽俊と長椅子に座って話の輪に入っている状態になっているが、積極的に会話は交わしていないようだ。 時折楽俊に話を振られ相槌を打ち、六太にからかわれてムキになっている。 そんな様子を、少し離れたところにある円卓を尚隆と囲みながら陽子は眺める。 「それにしても、慶麒をつれてくるとは思わなかったな」 酒を、と頼んだのに出された緑茶を素直に啜りながら尚隆が言う。視線は陽子と同じように何だかんだで楽しそうな彼らに向けられていた。 「ちょっとは六太君を見習ってもらおうと思って」 「ふん・・・・・六太みたいになったら困ると、本心では思っているだろう」 にやりと笑われて、慌てる陽子に尚隆は更に笑みを深める。 「いや、その・・・・・・でも、もう少しくらいくだけてくれてもいいかと・・・・・」 「ま、うちのはくだけすぎだからな」 「そういう意味じゃなくてっ」 また笑われて、尚隆にからかわれていると分かって、陽子はため息をついて肩を落とした。 「いいじゃないか。陽子と慶麒は割合相性はいいと見えるしな」 「え!?」 尚隆の言葉に陽子は驚いて椅子から飛び上がるほどだった。 「私と慶麒は相性よく見えるんですか!?」 「ああ」 頷かれて、陽子は困った。 「だって、こう・・・・困った問題があったとするじゃないですか?二人で話し合っていると喧嘩になるし、物別れに終わって翌日顔を合わせると私も慶麒も暗すぎるって、他の者に言われるし」 しどろもどろに言い募る陽子に、尚隆は 「似た者同士でいいじゃないか」 「でも、建設的な意見が出ないというのは・・・他の者に心配もかけるし。お互いが特別な相手というなら、引っ張り合っていないで高めあえる方がいいと思うし・・・・」 「うちなんて、やばくなったら二人でとんずらするぞ」 「・・・・延王」 「陽子がそういう考えのうちは大丈夫だろう。陽子は慶麒のこと嫌いなのか?」 「いえ・・・・たまに可愛いこともあるし」 陽子はほんの少しだけためらうように視線を揺らしてから、小声で言う。 はっきりとした口調の彼女にしては、珍しい。 「そういうことろを大事にしていけばいい。それは王しか見つけられない特権だからな」 尚隆の視線は陽子から離れた。 視線の先にいる小柄な麒麟は陽子の麒麟より明るい金色の髪を持っていて、元気ではすっこい。 陽子の前でも立ち振る舞いに気を使うわけではなく、それが陽子には逆に安心できたりするのだが、だから陽子の六太に対する印象は元気な男の子というものだった。 「六太君も延王にしか見せない表情があるのですか?」 問われて、視線を陽子に戻した尚隆は、ふと意地悪い表情になった。 「聞きたいか?」 ずっと顔を近づけて、口元だけで笑う仕草は酷く男くさい。 「結構です!」 近づかれただけ後ろに引いて、きっぱりと断る。 「そうか、残念だな」
六太がどんなに可愛いか教えてやろうと思ったのに。
陽子は懸命に、その言葉を忘れようと努力した。
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