28100番キリ番ゲッター 菜々子 様リクエスト 十二国記 尚隆×六太 |
高柳 悠
うららなかな日差しが気持ちよい、その日。 雁国国王執務室の警護に当たっていた武官は、こみ上げてくる欠伸をかみ殺しながら職務をまっとうしようと眠気と戦っていた。 国の中枢といっても安定したこの国では、緊張した状態からはほど遠い。 警護の者が立っているのは扉の前だが、いい風が吹いているとかいって窓という窓を前回にしているので、はっきり言って手薄な警護だ。 そんな長閑な空気の中、幾度目かの欠伸をグッと噛み締めた彼は、ふと視線を流してギョッとして飛び上がった。 ぐらついて扉にぶつかり、派手に音がなる。 その音で他の警護の者が集まってきたが、一様に絶句して固まってしまった。 それを気にもせず、警護の武官を凍りつかせた使令・悧角は悠然とその前を歩き開かれていた扉を通り奥へ進んでいく。 玄英宮に長く籍を置いていれば、使令の姿を一回や二回は見たことがある者が多いが、使令は基本的に姿を現さない。 今回これほどはっきりと長時間出てきている理由は、誰にでも一目で分かる。 その大きな背中にへばりついている、子供のせいだ。 子供といってもただの子供ではない。 金の髪を持つ子供。 その子供を乗せたまま驚いて道をあける官たちの間を通り抜けて、悧角は奥にいるだろう尚隆のもとへと歩みを進めていく。 「何だ?騒がしいな」 さざめきのような戸惑った空気を感じて、珍しく真面目に執務をこなしていた尚隆が顔をあげる。 惟端が立ち上がって、衝立に遮られた向こう側に行って、それから素っ頓狂な声を上げた。 「お前、どうしたんだぁ?」 その声に尚隆と朱衡もやってくる。 「六太?」 姿を現している悧角にも驚きだが、その背にがっしりとへばりついている六太にも驚く。 灰色の毛皮に顔をうずめて、つむじが正面を向いている。 どこか痛めたのかと尚隆がそばに寄ろうとすると、その腕に見えない手が触れた。 ひんやりとした手がそっと添えられて、体の中に声が聞こえた。
・・・・・・・・・雛が死にました
裏庭の大木に巣を作っていた野鳥の雛が先日孵って、それを見に行くのを大変楽しみにしていたが、今日行ったら巣の中には雛の姿はなく、満腹に膨れた腹を抱えて動けなくなった蛇がいたのだそうだ。 それだけを告げると、気配は溶けて消えた。 悧角は尚隆の前で立ち止まると、尚隆を見上げてじっとしている。 きっと官達もどうするのか?と見守っていることだろう。 「六太、どうした」 期待通りに声をかけると、肩がぴくりと動いた。 続いて顔が上げられた。 尚隆は六太が泣いてると思っていたが、泣いてはいなかった。 が、この顔は見覚えがある。 泣く一歩手前の表情だ。 案の定、尚隆の顔を認めた瞬間、大きな目からぽろりと涙が零れ落ちた。 「うっ・・・・・っ」 しゃくりあげて、うまく息継ぎが出来なくなる。 小さな子供の泣き方に、大人はただ抱きしめるしか出来なくなるのは、きっとどこでも同じだろう。 尚隆は悧角の背から自分の腕の中へと、六太を移動させる。 悧角はそれを確かめて、六太の影へと音もなく消えた。 尚隆の胸に抱きかかえられ顔をうずめて、六太はやっと声を出して泣き始めた。 かぼそい泣き声に、吊られた惟端がもらい泣きをしている間に、朱衡は尚隆を執務室から追い出し、官達に 「本日、解散」 と言い渡した。
END |