25000番キリ番ゲッター 桜江藍佳様リクエスト 十二国記 尚隆×六太 |
高柳 悠
遠くのざわめきに、執務室に向かっていた尚隆は足を止めた。 後ろに控える朱衡に視線を向けて問うてみたが、朱衡も首を傾げるだけだった。 普段は静かな宮殿内で、華やかな笑い声は興味を引く。 昨日も実は騒がしかったが、昨日のそれは笑い声ではなく悲鳴が飛び交う混乱状態に近かった。 昨日の騒ぎの原因は、麒麟である六太だった。 裏山で遊んでいて、巣から落ちた雛を見つけ、巣に戻そうと木登りをしたのは良かったが、雛を巣に戻し降りようとして足を滑らせ、必死に木にしがみついたところ、そのまま木の表面を滑り落ちてしまったらしい。 身体中擦り傷だらけだったが、一番酷かったのは手のひらだ。 素手の状態で擦られた手のひらは、細かい木の破片が入り込み、酷い裂傷を負っていた。 自分の血で半分卒倒しかけて使令に担ぎ込まれたが、六太の状態をみた女官達の騒ぎ様は半端ではなく、遠い外殿にいた尚隆のもとに届くのにはさほど時間はかからなかった。 しばらくして意識を取り戻した六太には朱衡がお約束のお小言を食らったが、愁傷に「ごめんなさい」をしたので、それ以上の大事にはならなかった。 玄英宮で騒ぎの元といえば主上か台輔のどちらかなので、自分ではないとすると今回も六太が原因ということになる。 とりあえず様子を見に、ざわめきの方へ足を向ける。方向としては、六太の私室のある方だ。 近づくと一層華やかさが増す。 開いたままの扉をくぐり、衝立をまわって尚隆が目撃した光景は和やかな食事の風景だった。 中心にいたのはやはり六太で、なんというか、雛鳥のようだった。 女官が食べやすい大きさにしたホクホクの芋を口元に運んでもらって、ご満悦の表情だ。 もぐもぐと噛み砕いて、もっと欲しいと大きく口を開ける。 箸を持つ六太付きの筆頭女官は、これまた嬉しそうに 「はい、あーん」 とか幼子に対するように、にこやかに卓に並んだ様々な食べ物をせっせと運んでやっていた。 そうして六太がパクリと食べるたびに、周りを取り囲んだ女官達から 「可愛い〜v」 とか声が上がるわけで。 両手を真っ白な包帯で包まれた姿は本来なら痛々しいのだが、母性本能豊かな女性陣にとって、宮殿内で唯一子供扱い出来る六太のこの状態は本能を全開にさせるに十分だった。 唖然と立ちすくむ男性陣には見向きもせずに女官達の視線は六太に釘付けで、尚隆に気が付いたのは当の六太だった。 「あっ、尚隆」 嬉しそうに、目がキラキラしている。 駆け寄ろうと椅子から立ちあがったが、周りにはべる女官達に遮られて動けない。 どうしようかと思っているうちに、食事の途中ですよ、とか言われて椅子に戻されてしまった。 口元に運ばれたご飯を、素直についばむ。 六太が飽きないように、色々な素材と調理方法の食べ物が甲斐甲斐しく運ばれて食べ物に弱い六太は、そのまま食べることに夢中になってしまった。 暖かな空間かた取り残された尚隆は、しばし動けなかったが、このまま六太を奪われたままではいられない。 無言で突進して蹴散らし、女官の非難と不満を粉砕して六太を担いで連れ出した。 「何?何?なんだよーーー!?」 小荷物のように運ばれて叫ぶ六太はとりあえず無視して、執務室までさっさと突き進んだ。 「ご飯、途中だったのに・・・・・・」 執務室の重厚な卓の上に下ろされて、六太は涙目になって訴える。 食事の恨みは、大きいのだ。 「ほら」 尚隆は引出しから包みを出すと、六太の前に置いた。 一昨日関弓で買ってきた揚げ菓子だ。 もともと六太への土産だったが、昨日渡す前にあの騒ぎで忘れられていたのだ。 揚げ菓子は六太の好物なので、途端に嬉しそうになったが、すぐに困った顔で尚隆を見上げた。 「・・・・食べれない」 両手が不自由で、食べれない。 尚隆は袋から豆粒大のそれを一つ取り出して、六太の口元に近づけた。 パカッと開いた口に、ポンと投げ込む。 「おいしーーーーっ」 ぽりぽりとした歯応えを楽しんで、六太はもっとと口を開く。 そこへまたポンと放り込んで、嬉しそうな六太に尚隆も自然と顔が緩む。 尚隆のエサやりは、女官の中に取り残された朱衡がやっとの思いで逃げ出して尚隆のもとに戻ってくるまで続けられた。 思いっきり朱衡に軽蔑した目でみられても、尚隆は知らん顔だ。 こんな可愛い物体を、女官達に奪われては堪らない。
結局六太は尚隆にエサを貰いつづけ、女官達からも構われて、そして官達からもおこぼれにあづかり、手が完治する頃にはその体重を増やしてしまっていた。
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