23456番キリ番ゲッター さほ様リクエスト

闇の末裔 巽×密

高柳 悠    

 

「黒崎くん」

そう、呼ばれる。

「はい」

と、と端的に答えて、指示を受けて、仕事をこなす。

召喚課の「陰の支配者」と噂される有能なこの人は、テキパキと仕事をこなしていく。

それでも山積みの仕事のせいで、朝は誰よりも早くて、夜は誰よりも遅い。

ちょっとでも手助けになればと頑張るけど、俺の横には余計に増やす事の天才がいるから、焼け石に水かもしれない。

ともするとサボりに走る都筑を上手いタイミングで牽制するテクニックは見習わないといけない。

そんなことを思っていると、ふと目が合った。

仕事中のキリリとした顔が、ほんの少しだけ優しくなる。

誰にも分からない一瞬。

それを感じとって、頬を熱くなってしまう。

恥ずかしくて、下を向いてしまった。

隣では都筑が怪訝そうに見ている。

「何でもねーよ」

乱暴に言って、ちらりと巽さんを掠め見ると、もう仕事の顔に戻ってしまっていた。

 

 

「お先に失礼します」

定時を告げるチャイムがなって、帰るために席を立つ。

まだあがれそうにない巽さんに声をかける。

「お疲れ様でした」

書面から顔を上げて答えてくれたけど、この返事ということは巽さんはまだ帰れないということだろう。

帰れるなら

「一緒に帰りましょう」

となるはずだから。

残念そうな気持ちが顔の出てたのか、困ったように笑った巽さんは

「早めに帰りますよ」

と言ってくれた。

「・・・・はい」

俺は良い子の返事をして、一人で家に帰る。

帰りついたマンションは一等地に立っている豪華マンションで、もちろん俺が購入した訳ではない。

持ち主は巽さんで、俺は巽さんの家に帰ってくる生活を送っているのだ。

所謂「同棲」で、考えると赤面してしまうが、嬉しくもある。

誰かと共に暮らせるというのが、俺には初めてのことだから。

早く帰ってくる、と言っていたから食事の支度をして待っていよう。

料理上手の巽さんの口にあうものを作るのは難しいけど、前に作ったらとても喜んでくれた。

だいたいの支度が終わって、いつでも温めれば食べられる状態になった。

調度そのタイミングで玄関の鍵を開く音がする。

「ただいま」

やわらかい声が、帰宅を知らせる。

「お帰りなさい」

出迎えると、微笑んでくれた。

「良い匂いがしますね」

玄関先に立つ俺の頬に手を当てて、引き寄せられる。

「夕飯・・・シチューなんです」

接近する巽さんにドキドキしんがら答えると

「楽しみです」

と言って、唇を重ねる。

 

 

「黒崎くん」

と呼ばれる。

でも家では

「密」

と呼ぶ。

おはようのキスと行って来ますのキスとただいまのキスとお休みのキスは欠かさない。

それ以外も事あるごとに、キスの嵐。

ついでに抱擁も欠かさない。

「召喚課の陰の支配者」で覚えめでたき有能な人だけど、たまの休日は密を膝の上に乗っけてくつろいじゃったりするベタベタな人だとは、たぶん密以外知らないことだろう。

 

END