12345番キリ番ゲッター 八坂 深果様リクエスト KOF 京×庵 |
高柳 悠
奥底でたゆっていた意識が、長い長い時間を掛けて浮上してくる。 視力が戻る前に聴力が低音の振動を捕らえていたが、それが何だったのか分かったのは、うっすらと開いた目が自分の状況を視覚として捕らえ、脳に伝達し、理解した後だ。 それにすら、ずいぶんと時間がかかった。 白い天井。 白い壁。 薬の匂い。 自分を取り巻く、救命もしくは延命のための機械。 それの発する、音。
まず、そう思った。 意識が戻っただけで、指先ひとつ動かすことはかなわないけど、生きている。 死ぬつもりだったのに。 オロチと戦って、生きていられるはずなど無いのに。 生きている。
なんだ。 終わってしまったのか。
ぽっかりと体に空洞が出来たように感じるのは、オロチが「いなくなった」からだろうか? 宿命から、開放されたからだろか? 空っぽのまま、助かってどうするのだろうか? あまりにもそれに捕われすぎていたから、なくなってしまったら、自分にはもう何もなくて、空っぽだ。
ああ。
ゆっくりと、目を閉じて。 長い長い時間を掛けて浮上してきたように、長い長い時間をかけて落ちていってしまおう。 そうしたら、もう目覚めなくてすむ。 空っぽな自分を抱えて、生きていかなくてすむ。 暗い闇の中に沈んでしまおう。
ゆっくりと、ゆっくりと。
沈む意識の最後の最後で捕らえた、音。 急速に引き戻された視力が捕らえた、人。 あちこちに包帯がまかれている体は、まだ死闘の痕跡を残している。 こちらに向かって歩む姿もどこか、ぎこちなかった。 「庵」 それでも声は、力強い。 よかった、と言って頬に触れる指先は暖い。 「・・・・・・・・」 相手の名前を呼ぼうとした自分の声は、音にならなかった。 吐息は、相手の呼吸と絡み合って飲み込まれていく。 少しかさついた唇が離れて、再び重なる。 何度も離れては、重なる。 その合間に 「・・・・・京」 と名前を呼んでみた。
もう、空っぽではなかった。 空っぽな空間は、この男で埋められてしまったから。
END
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