10000番キリ番ゲッター 那兎 様リクエスト 封殺鬼 三吾×眞巳 |
高柳 悠
四国からの連絡員代わりとして、兄である眞巳は月に一度ほどの割合で上京してきている。 兄を兄以上の存在として自覚して、想いを遂げてしまっている三吾としては月に一度くらいでは全然足りないが、かといって四国に戻るつもりは更々もっていない。 なので月に僅かしかない逢瀬は、たいそう大事で楽しみな行事な訳だ。 なのに、なのに、この始末。 風邪をこじらせて寝込んでしまった三吾は、眞巳が訪ねてきたときも起き上がることすら出来なかった。 というか、気付かなかった。 ぼんやりと目を開けたとき、視界に入った三吾が一番大好きな綺麗な顔に思わず涙が出そうになる。 具合が悪いと涙もろくなると言うのは本当なんだ、と片隅で思いながら細い指先が額に張り付いた髪をかきあげてくれるのにうっとりと浸る。 「気が付いたか?」 瞳が心配げに揺れている。 小さいことから風邪を引くと、こうやって見守ってくれてたっなぁと見下ろしてくる眞巳を見上げる。 「お医者様の診察では風邪だと言うことだが・・・・・・。このまま熱が下がらなければ入院もありうるからな」 熱を感じるために額に置かれていた手のひらがそっと離れて、かわりに冷たいタオルが置かれる。 「・・・・・・・医者?」 出た声は、やっと聞き取れるくらいのしわがれ声だ。 「往診に来てもらった」 このあたりのことはほとんど分からないから苦労した、と眞巳が苦笑いをする。 「気が付かなかっただろう。ぐったりしてたから・・・・・・」 本当に全然分からなかった。だいたい兄が来たのも何時なのか? 「兄さん・・・何時・・・きた?」 億劫ながらも言葉にする。 水気が飛んでしまった唇に、眞巳が湿らせたガーゼを当ててくれた。 「昨日」 あっさりとした返事に三吾が何を思ったのかというと「勿体無い」だった。 眞巳との貴重な時間を無駄にしたなんて、勿体無い! 「起きたのなら何か口に入れたほうがいいな。でないと薬も飲めない。起きれるか?」 ぐったりした面持ちの水面下で、三吾がそんなことを思っているとは知らずに眞巳はせっせと看病に勤しんでいる。 あぁ勿体無い、と心の中で連呼しつつ眞巳に支えられて体を起こす。熱の所為でまだクラクラする頭をなんとか平衡にたもってどうにかベットの上に座った。 そして、ふと目に入る浴衣。 三吾はいつもパジャマ代わりのTシャツ短パンで寝ている。今回ぶっ倒れる前も確か何とか着替えたはずだ。 「あ・・・・れ?」 用意してあった食事と薬を運んできた眞巳に、浴衣を引っ張って不思議がってみた。 「熱が高くて汗を沢山かいたから、体を拭いて着替えさせたんだが?着せるのに浴衣の方が着せやすかったからそっちにした」 「ええええええええぇっ!?」 「?」 辛そうだった体をばっと眞巳の方へ向けて、三吾が驚きの声をあげる。 いきなりのリアクションに、眞巳がぱっちりと瞬きをした。 動かない三吾と釣られて動けない眞巳は、しばしそのまま見詰め合った。 その均衡が破れたのは、三吾の一言。 「も・・・・勿体無い」 「は?」 「そーーーんな美味しいシュチュエイションを寝ていて気付かないなんて!!一生の不覚だぁ!!」 だーーーっと頭を掻き毟って振り上げて、そのままクラクラしてベットに沈む。 「あ、兄さん、今もう一回拭いてみない?ほら、結構汗かいてるしっ」 ねぇねぇねぇとねだっている間に、眞巳は運んできた食事と薬を丁寧にサイドテーブルに移してお盆を空にする。 おもむろに振り上げたそれは、大変綺麗に三吾の頭にクリーンヒットした。
END
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