500番キリ番ゲッター 卵月 綾 様リクエスト

鎧伝サムライトルーパー 当麻×征士

高柳 悠

「ただいま〜」

大学の図書館に調べものに行くといって出て行った当麻が帰ってきたのは、7時を少しすぎた頃だった。

一瞬どきりとしたが征士だが、何事もなかったように

「おかえり」

と返事を返す。

内心大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせる。

後始末はしたし、換気は十分、しかも夕飯は匂いの少々きつい焼き魚。

「お、うまそーーーーっ」

さっそく食い意地の張ったところをみせながら、当麻がキッチンを覗き込んでくる。

「もう少しで出来るから、手を洗ってこい」

振り返らないで、テキパキと支度を整えながら征士は当麻に言う。

「うん、そうする------------、あれ?」

手に持っていた本をソファーにほおって上着を脱ぎながら、洗面所に向かおうとした当麻はふいに足を止めて鼻をひくひく動かし始めた。

「あれ?・・・・・何か、甘い匂いが・・・・・する」

目をつぶって、匂いの元を探るようにフラフラと歩き回る。

心臓が止まりそうなくらい驚いた征士だが、それを悟らせないまま

「馬鹿なことを言ってないで、さっさと行ってこい」

と平静を装って言い放つ。

だが、背後に気配を感じて振り返ると真後ろに当麻が立っていた。

「せーちゃんから、あまーい良い匂いがする」

征士の首筋に顔を近づけて、くんと匂いをかぐ仕草をする。

「な、何を言っているっ」

「えー?甘い香りがするじゃん」

匂いをかぎながらくんくんと顔を上げて、やがて唇と唇が接近する。

「・・・・・ここが一番、匂いがする」

「当麻っ」

名前を叫んだ唇をふさがれて、ついばまれた。

「うん、甘い」

「っつ!」

「んじゃ、手を洗ってこようかな」

好き勝手に触れてから、当麻はくるりと体を反転させてキッチンを出て行く。残された征士は、口元を抑えてへたり込んでしまった。

当麻はキスが上手いから、征士はこんな軽いキスでも翻弄されてしまう。

当麻だから、翻弄されていても本気で嫌だと思えない。本当に甘いのかな?等と頬を赤らめている征士は、それないりに幸せなのである。

 

 

二人で食卓を囲んで、食事をして。

食後のんびりと過ごして、一緒の寝室で眠る。

戦いが終わって、離れ離れの時を過ごして、やっと二人きりの生活を手に入れたのは最近のことだ。

当麻がその頭脳を駆使して歳には合わない収入を得ているため、もっと早くに当麻は征士と暮らしたかったが、未成年の身ではそれもままならなかった。

家族と離れるというとことも、当麻にはすでに何でもないことだったが征士にとっては簡単なことではない。

だから、当麻はやっと手に入れた征士との生活を大事にしている。今日、征士が何かを隠していたのだってちゃんと知っている。

征士の変化なら、当麻は何だってわかるのだ。

当麻は征士がお風呂を使っている間に、キッチンで探し物を始めた。征士の隠したものがあるはずだから。

ぐるっと見回して、特に変わったことは見当たらない。

手近にあったゴミのふたを何気に開けて当麻は「ビンゴ」とつぶやいた。我ながらこういう感は冴えていると、自画自賛してみる。

匂いがもれないように厳重にビニール袋で包んでいるけど僅かに漏れ出した甘い匂いが確かにする。

黄色いスポンジと白いクリーム。

甘い匂いの原因。

完成体は「ケーキ」というものなのだろう。

ビニールを摘んで持ち上げて、中身を触ってみるとスポンジがグシャリと潰れて割れた。

ケーキにしては硬い手ごたえに、思わず笑ってしまう。

征士が一生懸命これを作っている姿を思い浮かべると、笑いは優しいものへと変化した。

そういえば、もうすぐクリスマスだ。

二人で向かえる、はじめてのクリスマス。

「クリスマスにはまだ時間があるから、大丈夫だよ。征士」

何時の間にかキッチンの入り口に立っていた征士に、当麻はそう言う。

征士の作ったケーキが食べたい、と。

バツの悪そうに立っていた征士は、ふいっと背を向けると寝室に向かって歩き始める。当麻も手にもっていたビニールを再びゴミ箱に入れると、その後を追う。

「征士、せーちゃんたら。ケーキ作ってくれんでしょ?」

寝室のベットに腰掛けて濡れた髪をタオルで拭いている征士の顔を覗き込むように、当麻は征士に語りかける。

わざと視線を合わせないようにしていた征士の口から言葉がこぼれたのは、随分だってからだ。

「・・・・・・和食は、得意なんだ」

辛抱強く待っていた当麻は、そうだよねぇと相槌を打つ。

「征士の煮物は絶品だよね」

うんうんと頷いてくれる当麻に、征士はなおも言う。

「中華も、秀に習ったから・・・・ちょっとは自信があるんだ」

でも、と言いよどむ。

「クリスマスに、ケーキ・・・・・作ってくれるんでしょ?」

「・・・・・・・・食べたいか?」

「征士の作ったもんなら、何でも食べたい!」

断言した当麻に、そうか、と小さく征士はつぶやいた。

「そうか・・・・・なら、作る」

にっこりと笑った笑顔は、当麻にしか見ることの出来ない特上のものだった。

 

END

 

 

 

*裏有*